海賊探偵社へようこそ! 1海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。1873年、ロンドン。 この日、ロックフォード伯爵家は、盛大なクリスマス=パーティーを開いていた。 「ジェフリー、何処に居るの!?」 「あいつの事は放っておけ、エセル。」 「でも・・」 パーティーで賑わっている本邸から少し離れた別邸でジェフリーは愛犬達と静かに過ごしていた。 病弱な彼は、一日の大半をベッドで過ごし、唯一の話し相手は、愛犬達だけ。 ―ジェフリー様は、あそこに? ―ロックフォード家の次期当主があれじゃねぇ・・ 周囲の心無い声に、ジェフリーは傷ついていた。 「お前達が言葉を話せたらいいのに。」 ジェフリーがそう言うと、愛犬の一匹が泣いている彼の頬を舐めた。 「パーティーなんて、出たくないよ・・」 「じゃぁ、俺が行って来てやろうか?」 そう言いながらジェフリーの前に現れたのは、彼の双子の弟・アンソニーだった。 「アンソニー、そんな事をしたら、怒られちゃうよ。」 「なぁに、同じ顔だから、バレないさ。待ってろ、美味しいご馳走を沢山持って来てやるから!」 これが、ジェフリーとアンソニーが交わした、最後の会話だった。 (アンソニー、遅いな・・) ジェフリーが中々戻って来ないアンソニーを心配したジェフリーが別邸から出ると、空が赤く染まっていた。 本邸が、炎に包まれていた。 (お父様、お母様、アンソニー!) クリスマス=イヴに、ジェフリーは独りになった。 ジェフリーの愛犬達は、それぞれ親族の元へと引き取られていった。 (俺は、もう独りだ。) 1893年、ロンドン。 「ジェフリー、起きろ!」 「あと5分でいいから寝かせてくれ・・」 「起きろ!」 ナイジェル=グラハムは中々ベッドから出て来ないジェフリーに苛立ち、シーツを彼から剥ぎ取った。 「何をするんだ!」 「さっさと起きて、飯を食え!」 「わかったよ・・」 ジェフリーは渋々と起き上がってベッドから出ると、台所の方から朝食のパンの香ばしい匂いがしてくる事に気づいた。 「今日の朝刊だ。」 「う~ん、どれどれ・・あまり面白い事がないな。」 ジェフリーはそう言った後、興味が無さそうに朝刊を長椅子の上に放り投げた。 その時、玄関の方から誰かがドアを叩く音が聞こえた。 「こんな朝っぱらから、誰だ?家賃の支払いなら、もう済んでいるぞ。」 ジェフリーがそう言いながら焼き立てのパンを齧っていると、ドアの方から女の悲鳴が聞こえて来た。 「おい、そこで何をしている!」 女の悲鳴を聞いたナイジェルが包丁を持って玄関から外へと飛び出すと、そこには大男が今まさに若い娘を襲おうとしている所だった。 「大丈夫か!?」 「はい、助けて頂いてありがとうございました。」 乱れた髪を手櫛で整えながら、娘はナイジェルに礼を言ってその場から立ち去ろうとしたが、その時僅かな段差に躓いてしまった。 「すいません・・」 「中で少し休んでいかないか?」 「はい・・」 娘―東郷海斗は、全財産が入ったトランクを握り締めながら、『グローリア探偵事務所』の中へと入った。 「失礼します。」 「狭い所だが、寛いでくれ。」 「はい・・」 「ナイジェル、そちらの素敵なお嬢さんはどなたかな?」 「ジェフリー、レディの前では服を着ろ!」 半裸で浴室から出たジェフリーに、ナイジェルは思わず怒鳴ってしまった。 「先程は助けて頂いて、ありがとうございます。」 「お嬢さん、もしかして日本人かい?」 ジェフリーの問いに、海斗は静かに頷いた。 「ここへは、あるお願いをしに参りました。」 「何やら訳ありのようだな?」 ジェフリーは、海斗が握り締めているトランクを見た。 「わたしを、匿って欲しいのです。」 「わかった。丁度うちは人手不足で、優秀な事務員を募集中なんだ。」 「以前、遠縁の伯父が経営する会計事務所に務めていました。」 「そうか。なら話は早い。」 「ジェフリー、軽率過ぎるだろう!男所帯に若い娘を・・」 ナイジェルは素性が判らない海斗を雇ったジェフリーを非難したが、ジェフリーは次の言葉を継いで彼を黙らせた。 「ナイジェル、こちらのお嬢さんにはリリーの所で暮らして貰う。」 「リリー?」 「会えばわかると思うが、俺達の大家だ。自己紹介が遅れたな、お嬢さん。俺は、ジェフリー=ロックフォード、この探偵事務所の社長だ。」 「東郷海斗です。」 「海賊探偵社へようこそ、カイト。」 「ジェフリー、居る?」 海斗とジェフリーが互いに自己紹介を終えた時、事務所に大家のリリーが入って来た。 「あら、もう新しい子を雇ったの、ジェフリー?」 |